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施工管理の離職票|「自己都合」は残業時間で覆るか

公開日 2026-09-03調査番号 R-article-123

退職して数週間すると、離職票が届く。離職理由の欄に「自己都合」と書いてある。

多くの人は、ここで何も思わない。自分から辞めたのだから自己都合だ、と読んで終わる。私もそうだった。

ただ、雇用保険には「自己都合」の外側にもうひとつの枠がある。そしてその枠に入るかどうかの基準には、残業時間が数字で書き込まれている。辞めた理由が長時間労働だったなら、離職票の「自己都合」は最終確定ではない。

この記事では、その基準がどこにどう書かれているかを条文で確認する。そのうえで、記録が乏しいと事実確認が難しくなるという、条文からは見えない部分まで書く。

なお、この記事は法律相談ではない。個別の判定はハローワークが事実関係を調査して行う。ここで扱うのは、条文と公的資料から誰にでも確認できる枠組みである。

「自己都合」の外側にある2つの枠

雇用保険には、通常の受給資格者とは別に特定受給資格者と特定理由離職者という区分がある。この2つは別物で、効果も同じではない。

2つの区分で効果が違う

特定受給資格者

  • 被保険者期間 12か月→6か月適用される
  • 所定給付日数の優遇表(最長330日)適用される

特定理由離職者

  • 被保険者期間 12か月→6か月適用される
  • 所定給付日数の優遇表(最長330日)一部のみ(下記)

所定給付日数の優遇表について、ハローワークは「特定受給資格者及び一部の特定理由離職者」と書いたうえで、こう補足している。

特定理由離職者のうち「特定理由離職者の範囲」の1に該当する方については、受給資格に係る離職の日が2009年3月31日から2027年3月31日までの間にある方に限り、所定給付日数が特定受給資格者と同様となります。

「範囲の1」は有期労働契約の雇止めの区分である。期限つきの措置なので、ここを一般化して読まない。

被保険者期間の読み替えのほうは、両方に効く。雇用保険法13条は原則として「離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上」を求めるが、同条2項が特定理由離職者と特定受給資格者について読み替えを定めている。

2 特定理由離職者及び第二十三条第二項各号のいずれかに該当する者(…)に対する前項の規定の適用については、同項中「二年間」とあるのは「一年間」と、「二年に」とあるのは「一年に」と、「十二箇月」とあるのは「六箇月」とする。

短期で転職を重ねた人ほど、この読み替えの有無で受給できるかどうかが変わる。

所定給付日数のほうは雇用保険法23条1項にある。よく「最大330日」と紹介されるが、これは基準日に45歳以上60歳未満で、算定基礎期間が20年以上の場合の数字である(同項2号イ)。年齢と勤続の組み合わせで決まるので、条件を外して読むと合わない。

肝心の「45時間」は、雇用保険の条文に書かれていない

ここが本記事で一番伝えたいところである。

特定受給資格者の範囲について、ハローワークの解説ページはこう書いている。

(5) 離職の直前6か月間のうちに[1]いずれか連続する3か月で45時間、[2]いずれか1か月で100時間、又は[3]いずれか連続する2か月以上の期間の時間外労働を平均して1か月で80時間を超える時間外労働が行われたため離職した者。

多くの記事はここまでを引いて終わる。ところが、根拠となる雇用保険法施行規則36条5号の原文には、45時間という数字が存在しない。

五 次のいずれかに該当することとなつたこと。 イ 離職の日の属する月の前六月のうちいずれか連続した三箇月以上の期間において労働基準法第三十六条第三項に規定する限度時間に相当する時間数(…)を超えて、時間外労働及び休日労働が行われたこと。 ロ 離職の日の属する月の前六月のうちいずれかの月において一月当たり百時間以上、時間外労働及び休日労働が行われたこと。 ハ 離職の日の属する月の前六月のうちいずれか連続した二箇月以上の期間の時間外労働時間及び休日労働時間を平均し一月当たり八十時間を超えて、時間外労働及び休日労働が行われたこと。

イは「労働基準法36条3項に規定する限度時間に相当する時間数」と書いているだけで、数字は労働基準法から借りてきている。その借り先が36条4項である。

4 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。

括弧書きに注意したい。対象期間を3か月超とする1年単位の変形労働時間制を採っている事業場では、限度時間は月45時間ではなく月42時間になる。1年単位の変形労働時間制は建設業で採られることがある制度なので、「45時間」を全員に当てはめて読むと、事業場によっては3時間ぶん外れる。

もうひとつ、ロの原文は「一月当たり百時間以上」である。ハローワークの解説は3つをまとめて末尾の「を超える」で受けているが、省令は「以上」と書いている。省令のほうが広い。100時間ちょうどの月があった人は、解説文だけを読んで諦めない理由がある。

建設業には、労働基準法と雇用保険がずれる場所がある

2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用された。ただし労働基準法139条に、建設業向けの特例が残っている。

第百三十九条 工作物の建設の事業(災害時における復旧及び復興の事業に限る。)その他これに関連する事業として厚生労働省令で定める事業に関する第三十六条の規定の適用については、当分の間、同条第五項中「時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)」とあるのは「時間」と、「同号」とあるのは「第二項第四号」とし、同条第六項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)の規定は適用しない。

読み方で外せない点が3つある。

ひとつ、適用対象は建設業一般ではなく、災害時における復旧及び復興の事業に限られる。「建設業だから上限規制の外」ではない。

ふたつ、外れるのは一部だけである。36条5項の特別条項のうち「1か月について100時間未満」の枠と、6項2号・3号(単月100時間未満・複数月平均80時間以内)が適用されない。一方で、次のものはそのまま残る。

  • 特別条項でも年720時間を超えられないこと(36条5項)

  • 限度時間(月45時間、対象期間3か月超の1年単位変形労働時間制なら月42時間)を超えられるのは年6か月以内であること(同項)

  • 36協定そのものの締結・届出(36条1項)

しかも、この特例を使うには専用の様式による届出が要る。労働基準法施行規則70条が定めている。

第七十条 第十六条第一項の規定にかかわらず、当該事業場の事業に法第百三十九条第一項に規定する事業が含まれている場合における法第三十六条第一項の規定による届出は、様式第九号の三の二(法第百三十九条第一項の規定により読み替えて適用する法第三十六条第五項に規定する事項に関する定めをする場合にあつては、様式第九号の三の三)により…行わなければならない。

つまり139条1項は、災害復旧・復興の事業について専用様式の36協定を届け出ている事業場で、はじめて働く仕組みである。

みっつ、139条2項にあった建設業全体の猶予は、令和6年3月31日で終了している。

そのうえで、ここに非対称が生まれる。雇用保険法施行規則36条5号のロ・ハは雇用保険側の基準であり、労働基準法139条の適用除外とは無関係に働く。

専用様式の36協定を届け出た災害復旧の事業で、ある月に100時間以上の時間外・休日労働があった場合

労働基準法

  • 単月100時間未満の要件139条1項により適用されない
  • その月の100時間以上という事実この要件の違反にはならない
  • 残る規制年720時間・年6か月以内・専用様式での36協定の届出は残る

雇用保険

  • 単月100時間未満の要件関係しない
  • その月の100時間以上という事実雇保則36条5号ロに該当しうる
  • 残る規制―

つまり同じ働き方が、労働基準法の「単月100時間未満」という一点では違反にならず、雇用保険の側では特定受給資格者の基準に該当しうる。ただし労働基準法の上限規制がまるごと外れるわけではない。制度は別々に作られているので、片方の結論をもう片方に持ち込むと読み違える。

求人票と条件が違って辞めた場合も、同じ枠にある

雇保則36条は5号だけではない。2号にこう書かれている。

二 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したこと。

長時間労働だけが入口ではない、ということである。提示された条件と実際が食い違ったために辞めた場合も、同じ特定受給資格者の枠が視野に入る。この食い違いをどこで判定するか(求人票ではなく労働条件通知書との相違で決まる)は、求人票と労働条件が違うときの記事で条文から整理した。

同条には他にも、賃金の3分の1超の不払い、賃金が85%未満に低下、職種転換時の配慮の欠如、就業環境を著しく害する言動、退職勧奨、といった事由が並んでいる。

判定するのは会社ではない。そして最初の分岐は退職前にある

離職理由を最終的に決めるのは、会社でもあなたでもない。ハローワークである。手続の説明にこう書かれている。

ハローワークでは、受給要件を満たしていることを確認した上で、受給資格の決定を行ないます。このときに、離職理由についても判定します。 なお、離職理由に異議がある場合(実際は、事業主からの退職勧奨であるにも関わらず、自己都合退職とされている場合など)は、ハローワークにご相談ください。 ハローワークにおいて、事実関係を調査のうえ、離職理由を判定します。

そして、同じページにもうひとつ書かれていることのほうが実務的には重い。

できれば在職中に「雇用保険被保険者証」の有無を確認してください。また、会社がハローワークに提出する「離職証明書」については、離職前に本人が氏名の記載をすることになっていますので、離職理由等の記載内容についても確認してください。

離職票が届いてから読むのでは、一手遅れている。会社が離職理由を書いた書類に、退職前に自分の名前を書く場面がある。そこが最初の分岐点になる。

なお、離職票そのものを交付するのは公共職業安定所長であって事業主ではない(雇用保険法施行規則17条)。この点と退職証明書の実務は建退共と退職金の記事で扱った。

私の離職票にも「自己都合」と書いてあった。違和感は無かった

ここから、私自身の話をする。

先に書いておくと、私は離職理由を争った経験を持たない。争う理由がなかったからである。この記事の中心にある局面を、当事者として通ってはいない。

離職票には「自己都合」と書かれていた。まさに自分の都合で辞めたので、何の違和感もなかった。離職理由に異議を出せるという制度があること自体、当時はまったく知らなかったし、異議もなかったので考えたこともなかった。

離職証明書に署名した記憶もない。おそらく見せられなかったのだと思う。ただ、「何月何日をもってこの会社の社員ではなくなります」という趣旨の、関係者でなくなることについての同意書のようなものにサインをした記憶はある。それが離職証明書だったのかどうかは、今も分からない。そのときは、少し寂しかった。

退職届は会社所定の書式だった。「一身上の都合で書け」と指定されたわけではない。自分でネットを調べて、「一身上の都合により」と書いた。

退職を決めた時期の時間外労働は、月20時間前後だったと思う。省令の基準には遠い。

ただ、この記事を書くために条文を読んで、当時は見えていなかったことがひとつある。

争う材料は、辞める何年も前から積み上がっている

私が勤めていた会社では、入社から十数年、残業代が出なかった。出ないことに違和感も不満も持っていなかった。そういうものだと思っていた。

その後、社会のルールが厳しくなり、「残業代を全く出さないのは労基に引っかかる」という話が社内で出て、月20時間を超えた分は残業代が出るようにルールが変わった。

そしてこのルール変更に伴って、タイムカードが導入された。当時は打刻システムなど無かったので、退勤時に自分で時間を手書きして、上司にハンコをもらう運用だった。

ここに、条文を読むだけでは出てこない話がある。

十数年のあいだ、少なくともタイムカードによる労働時間の記録は存在しなかった。もしその期間に、雇保則36条5号に該当するような働き方をしていたとしても、労働時間を正面から示す材料は手元になかったことになる。記録が生まれたのは、法規制が厳しくなって会社が対応を迫られてからである。しかもその記録は、自己申告を手書きし、上司の承認印をもらうものだった。

離職理由を争うというのは、自分の労働時間を主張することである。主張には材料が要る。

条文は「連続した三箇月以上の期間において限度時間を超えて」と書く。判定はハローワークが本人と事業主の双方から事情と資料を確認して行うので、記録が無ければ主張できない、というほど単純ではない。それでも、本人の側に記録があるほうが事実確認は進めやすい。

離職理由の見通しが立つのは、離職票が届いた瞬間ではない。何年も前に、その会社に労働時間を記録する仕組みがあったかどうかが、そこに効いてくる。

だから、いま在職中で「辞めるときに揉めそうだ」と考えている人にとって意味があるのは、離職票の読み方を覚えることではなく、手元に記録を残しておくことのほうだ。会社が労働時間をどう記録しているか——そもそも記録しない建て付けになっていないか——は、直行直帰と「みなし」の記事で労働基準法の側から扱った。

そして、記録がある人にとっては、逆のことが言える。その時間外労働を理由に離職したのであれば、離職票に「自己都合」と書かれていることだけで結論は決まらない。該当するかどうかを判定するのはハローワークである。手元に材料があるかどうかは、その事実確認の進みやすさを左右する。

給付制限の話とは別の話である

紛らわしいので、切り分けておく。

自己都合退職の給付制限がいつ明けるのか——その根拠が法律なのか通達なのか、教育訓練で解除できるのか——は失業給付と給付制限の記事で扱っている。

こちらの記事が扱っているのは、そもそも給付制限がかかる区分に入るのかどうかである。特定受給資格者に当たると判定されれば、給付制限の長短を気にする場面自体が変わる。

まとめ

  • 雇用保険には「自己都合」の外側に特定受給資格者・特定理由離職者の枠がある。被保険者期間の12か月→6か月は両方に効くが、最長330日の所定給付日数の表は特定受給資格者と、期限つきで一部の特定理由離職者に限られる

  • 「45時間」は雇用保険の省令に書かれていない。雇保則36条5号イは労働基準法36条3項の限度時間を参照しているだけで、数字は同条4項にある。対象期間3か月超の1年単位変形労働時間制を採る事業場では42時間

  • 省令ロは「100時間以上」であり、ハローワークの解説文の「超える」より広い

  • 労働基準法139条1項が上限規制の一部を外しているのは災害時の復旧・復興事業に限られ、限度時間そのものは外れていない。そして雇用保険側の基準は139条とは無関係に働く

  • 長時間労働だけが入口ではない。明示された労働条件が事実と著しく相違した場合も同じ枠にある(雇保則36条2号)

  • 判定するのは会社ではなくハローワーク。そして最初の分岐は離職票が届いた後ではなく、離職前に離職証明書へ氏名を記載する場面にある

  • ただし判定は本人と事業主の双方から事情と資料を確認して行われる。本人の側に記録があるほうが事実確認は進めやすく、その材料は辞めるときではなく、何年も前からの会社の運用で積み上がっている

「自己都合」の3文字は、書かれた時点では結論ではない。結論を決めるのはハローワークの調査であり、手元の記録はその重要な材料になる。

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