辞めてしばらくすると、自宅に納税通知書が届く。転職して収入が下がっていても、書かれている額は前の年の所得で計算されている。
あるいは逆に、最後の給与明細を見て驚くことがある。住民税が1か月分ではなく、年度の残り全部まとめて引かれている。
どちらになるかは、退職した時期と、6月1日から12月31日ならそれに加えて本人の申出があったかどうか、そして5月31日までに支払われる給与や退職手当等が残っている税額を超えるかどうかで分かれる。地方税法がそう定めている。そして分け方は、よく説明されている「1〜5月退職は一括徴収」とは少し違う。
住民税は、前の年の所得に対して、6月から翌年5月にかけて引かれている
まず、時計の位置を合わせておきたい。
給与から住民税を天引きする仕組みを特別徴収という。その徴収期間を定めているのが地方税法321条の5第1項である。
前条の特別徴収義務者は、同条第二項に規定する期日までに同条第一項後段(同条第六項において準用する場合を含む。)の規定による通知を受け取つた場合にあつては当該通知に係る給与所得に係る特別徴収税額の十二分の一の額を六月から翌年五月まで、(中略)それぞれ給与の支払をする際毎月徴収し、その徴収した月の翌月の十日までに、これを当該市町村に納入する義務を負う。ただし、当該通知に係る給与所得に係る特別徴収税額が均等割額に相当する金額以下である場合には、当該通知に係る給与所得に係る特別徴収税額を最初に徴収すべき月に給与の支払をする際その全額を徴収し、その徴収した月の翌月の十日までに、これを当該市町村に納入しなければならない。
東京都主税局の事務手引きも、同じことを平易に書いている。
個人住民税特別徴収の徴収期間は、6 月から翌年 5 月までの 12 か月で、特別徴収した個人住民税の納期限は、月割額を徴収した月の翌月 10 日です。
1月から12月ではなく、6月から翌年5月までの12か月である。この12か月のどこで辞めるかが、あとで効いてくる。
なお12分割は原則であって、ただし書に例外がある。税額が均等割額に相当する金額以下なら、最初に徴収すべき月に全額を徴収する。
そしてこの税額は、前年の所得をもとに計算されている。転職して年収が変わっても、その年度に引かれる住民税は前年基準のまま動かない。辞めたあとの家計に効いてくるのは、この時差のほうである。
辞めると、原則として翌月以降の分は会社が徴収しなくなる
退職すると、会社は給与を払わなくなるので天引きもできなくなる。その場合の原則を定めているのが321条の5第2項の本文である。
前項の特別徴収義務者は、(中略)個人の市町村民税の納税義務者が当該特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなつた場合には、その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額(中略)は、これを徴収して納入する義務を負わない。
原則は、普通徴収への切替えである。市町村から自分あてに納税通知書と納付書が届き、自分で納める。大阪市の説明も「普通徴収に切り替え」を最初に置いている。
ただし、この条文には長いただし書がついている。そこで話が分かれる。
ただし書が、退職の時期を2つに分けている
321条の5第2項のただし書は、次のように書かれている。
ただし、その事由が当該年度の初日の属する年の六月一日から十二月三十一日までの間において発生し、かつ、総務省令で定めるところによりその事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額を特別徴収の方法によつて徴収されたい旨の納税義務者からの申出があつた場合及びその事由がその年の翌年の一月一日から四月三十日までの間において発生した場合には、(後略)
分かれ目は2つある。
6月1日から12月31日までに退職した場合は、次節の金額条件を満たすことを前提に、本人からの申出があったときに一括徴収になる。申出をしなければ普通徴収に切り替わる。
翌年1月1日から4月30日までに退職した場合は、同じく次節の金額条件を満たすことを前提に、本人の申出がなくても一括徴収になる。
どちらにも、次の節で見る金額の条件が共通してかかる。時期の区分だけで一括徴収になるかどうかが決まるわけではない。
東京都主税局の手引きは、後者について条文名まで挙げて書いている。
翌年 1 月 1 日から 4 月 30 日までに退職等をした場合 地方税法第 321 条の 5 第 2 項により、特別徴収できなくなる税額は、本人の申し出がなくても、5 月 31 日までの間に支払いをする給与又は退職手当等から一括徴収することになっています。
そして、5月について別に注記している。
※ 5 月退職の場合も、最終月分として特別徴収により納入していただきます。
条文が定めているのは「1月1日から4月30日まで」であって、5月は入っていない。5月は徴収期間の最終月にあたるので、そもそも翌月以降に残る月割額がない。「1〜5月退職は一括徴収」という説明を見かけるが、正確ではない。
「最後の給与から引ける額があるときに限り」という条件がついている
もっとも、1月から4月に辞めれば必ず一括徴収になるわけでもない。同じただし書の後半に、金額の条件がある。
当該納税義務者に対してその年の五月三十一日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等で当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り、その者に支払われるべき給与又は退職手当等の支払をする際、当該月割額の全額(中略)を徴収し、その徴収した月の翌月十日までに、これを当該市町村に納入しなければならない。
「超えるもの」である。残っている税額と同額では、文言上この条件を満たさない。「最後の給与が残額を下回るとき」という言い方をよく見るが、条文はもう少し狭いところに線を引いている。
条件を満たさないときにどうなるかも、書き方に注意がいる。「会社が一括徴収できない」のではなく、321条の5第2項による一括徴収の対象にならず、原則どおり普通徴収への切替えになる。義務の話であって、能力の話ではない。
ここでもうひとつ、資料の読み方について書いておきたい。東京都の手引きは、この条件をこう要約している。
(死亡退職の場合や、一括徴収すべき金額が退職手当等の金額を超える場合は、この限りではありません。)
条文は「給与又は退職手当等」と書いていて、退職手当等に限っていない。自治体の説明は実務でよくある場面に合わせて書かれているので、条文そのものより狭くなっていることがある。手引きは手引きとして正確でも、それを条文の要約として引くとずれる。
6月から12月に辞めるなら、申出には期限がある
6月から12月に退職する場合、前節の金額条件を満たすことを前提に、一括徴収を選ぶかどうかは自分で決められる。ただしこの申出には期限がある。
地方税法施行規則9条の23第1項である。
法第三百二十一条の五第二項ただし書の規定による納税義務者からの申出は、給与の支払を受けないこととなつた日の属する月の末日までにするものとする。
退職月の末日までである。自治体の解説ページの多くは、一括徴収と普通徴収のどちらを選べるかまでは書いていても、この期限には触れていない。
申出をしなかった場合の計算方法も、同じ条文の3項に書かれている。
3 (中略)その申出があつたときはその申出に係る額とし、その申出がないときは同条第二項ただし書の規定により徴収すべき給与所得に係る特別徴収税額を当該給与又は退職手当等の合計額と当該給与又は退職手当等のそれぞれの額との割合によつてあん分した額とする。
会社の側にも期限がある。321条の5第3項が給与所得者異動届出書の提出を義務づけ、施行規則9条の24がその期限を定めている。
法第三百二十一条の五第三項に規定する届出書は、同条第二項の事由が発生した日の属する月の翌月の十日までに提出しなければならない。ただし、当該事由が四月二日から五月三十一日までの間に生じた場合における(中略)当該届出書の提出は、法第三百二十一条の四第一項後段の規定による通知のあつた日の属する月の翌月の十日までとする。
この届出が遅れるとどうなるかを、大阪市がはっきり書いている。
この届出書の提出が遅れますと、納税義務者(従業員等)への納税通知書の送付が遅れ、一度に多額の税額を納付しなければならなくなり、また、特別徴収義務者(給与支払者)に督促状等をお送りする場合がありますので必ず提出期限までに提出してください。
通知が遅れると、まとめて来る。辞めてしばらく何も届かないことが、必ずしも良い知らせとは限らない。
なお、従業員が常時10人未満の事業所では、会社が市町村に納入する回数を年2回にできる特例がある(321条の5の2)。ただしこれは納入の特例であって、従業員の給与からは毎月徴収される。東京都の手引きも「この特例は納期に関する特例になりますので、従業員の方の給与からは毎月徴収してください」と注記している。
変わるのは経路であって、税額ではない
ここまで見てきたことを、ひとつにまとめておきたい。
住民税は、退職日が変わっても税額そのものは変わらない。前年の所得に対して計算された額があり、その残りをどう払うかという経路が変わるだけである。会社が最後の給与からまとめて差し引くのか、自分が納付書で払うのか。それだけの違いになる。
この点は、社会保険料とはっきり違う。健康保険と厚生年金では、前月から続けて加入している人の場合、月末に辞めるかその前日に辞めるかで退職前の勤務先で算定される分が変わり、その月にどの制度の保険料を、どの経路で納めるかまで動く(退職後側の保険料は別計算になるため、総額の有利不利までは判断できない)。詳しくは退職日と社会保険料の記事で扱った。
同じ「退職日」という日付でも、制度によって効き方が違う。社会保険ではどの制度の保険料を納めるかが移り、住民税では同じ税額をどの経路で納めるかだけが変わる。
そして、退職の時期と金額条件によって、申出ができる場面とできない場面がある。
6月から12月に辞めるなら、前節の金額条件を満たすことを前提に、一括徴収か普通徴収かを選べる。ただし申出には退職月の末日という期限がある。1月から4月に辞めるなら選べない。5月なら通常どおり最終月分として引かれる。
退職の時期を決めるときに、確認しておくこと
会社と退職日を相談するとき、住民税の話まで持ち出すことは少ないと思う。実際、税額が変わるわけではないので、そこを理由に日付を動かす必要もない。
私自身は11月末に退職していて、時期の区分としては申し出ができる側にあたるが(金額条件を満たしていたかは記録が残っていない)、一括にするか自分で払うかを選んだ記憶も、会社から確認された記憶もない。退職後に通知が届いたときに金額が増えた感覚はあったものの、退職金の支給や給与支払月のずれで収支が普段と違っていたため、その変化はそのなかに埋もれた。
次の2つは、知っているかどうかで扱いが変わる。
ひとつは、辞めたあとにまとまった額が来る可能性である。6月から12月に辞めて申出をしなければ普通徴収に切り替わり、残りの分は自分で納めることになる。転職先の初任給が入る前に納期が来ることもある。
もうひとつは、金額条件を満たしていても、選べる期間が退職月の末日で切れることである。会社から確認されるとは限らない。大阪市の運用表は6月から12月について「できる限り一括徴収をお願いします」と書いているが、これは市町村から会社への依頼であって、本人が申し出なければ一括徴収にはならない。
辞めるときの手続き全般については退職の引き止めの記事で、住民税特別徴収税額通知書が入社時に何に使われるかは入社日と専任義務の記事で扱っている。賞与の支給日在籍要件は賞与と退職日の記事にある。
まとめ
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住民税の特別徴収は、前年の所得に対する税額を6月から翌年5月までの12か月で徴収する(地方税法321条の5第1項)。ただし税額が均等割額に相当する金額以下の場合は、最初に徴収すべき月に全額を徴収する
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退職すると、原則として翌月以降の月割額は会社が徴収・納入する義務を負わない。つまり普通徴収への切替えが原則である(同2項本文)
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ただし書が時期で分ける。6月1日〜12月31日は本人の申出があったとき、翌年1月1日〜4月30日は申出がなくても一括徴収になる(いずれも次項の金額条件を満たす場合)
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5月は含まれない。5月退職は最終月分として通常どおり特別徴収される(東京都主税局の手引き)
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一括徴収には金額の条件がある。5月31日までに支払われる給与又は退職手当等で、残っている月割額の全額に相当する金額を「超える」ものがあるときに限られる。同額は文言上含まれない
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条件を満たさないときは「会社が一括徴収できない」のではなく、321条の5第2項による一括徴収の対象にならず、普通徴収への切替えになる
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6月〜12月退職で一括徴収を選ぶ場合、申出の期限は退職月の末日である(地方税法施行規則9条の23第1項)
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会社の給与所得者異動届出書は事由が発生した月の翌月10日まで(事由が4月2日〜5月31日に生じた場合は別の期限)。遅れると納税通知書の送付も遅れ、あとでまとめて納めることになる
住民税で退職日が決めるのは、払う額ではなく払い方である。申し出て選べるのは6月から12月に辞めた場合だけで、金額条件を満たすことが前提になり、しかもその申出は退職月の末日で閉じる。
そして、時期の上で申出ができる区分にいても、誰かが聞いてくれるとは限らない。