施工管理転職ナビ

編集部調査報告書

退職・判断

調査番号
R-article-113
公開日
2026-08-15

施工管理の内定取消|「配属現場がなくなった」は通るか

内定通知を受け取り、現職に退職を申し出て、引き継ぎの段取りを組み始めた頃に連絡が来る。「配属予定だった現場が流れまして」「入社を少し延ばしていただけませんか」と。

中途採用の内定取消は、新卒と同じ法律で守られている。労働契約法も、解雇予告の規定も、同じように及ぶ。

違うのは、誰もそれを数えていないことだ。

あなたの分は、誰も数えていない

先に、統計の話をしておく。

中途採用の内定取消がどれだけ起きているかを示す公的な統計は、存在しない。理由は後で条文から示すが、国が集計する仕組みそのものが無いからである。

そのうえで注意してほしいことがある。検索すると「厚生労働省の調査によると、中途採用の内定取消は年間約40〜50件」といった数字を載せた記事が上位に出てくる。だが厚生労働省はその統計を作っていない。**出典として存在しないものが引かれている。**この記事では当然使わないが、この領域の情報がどういう状態にあるかは知っておいたほうがいい。

条件付きで使える公的な数字は一つある。東京都産業労働局の『令和6年 東京都の労働相談の状況』によれば、「労働契約」に関する労働相談6,710項目のうち、「内定・取消」が6.3%を占める。ただしこれは東京都だけの数字で、新卒と中途を分けていない。

つまり、あなたが今直面していることの規模を示すデータは、どこにも無い。

内定はいつ「契約」になるのか

内定取消を扱った記事のほとんどは「内定=労働契約成立」と断言する。だが最高裁はそう言っていない。

大日本印刷事件(最高裁第二小法廷 昭和54年7月20日判決・民集第33巻5号582頁)の判決文を読むと、こう書かれている。

企業が大学の新規卒業者を採用するについて、早期に採用試験を実施して採用を内定する、いわゆる採用内定の制度は、従来わが国において広く行われているところであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。したがつて、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するにあたつては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある。

「一義的に論断することは困難」と最高裁自身が書いている。だから断言する解説は、判決より踏み込んでいることになる。

では、この事案で何が認定されたのか。

被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を昭和四四年大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の五項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。

(なお、この構成はしばしば「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれる。ただしこの語は判決文には一度も出てこない。学説と実務が付けた呼称である)

重要なのは、何が揃っていたから成立と認定されたかのほうである。事実関係として挙がっているのは次のようなものだ。

  • 内定通知書が交付されていること

  • 取消事由を列挙した誓約書を提出していること

  • 就労の始期(入社日)が定まっていること

  • 他社の選考を辞退するよう指示されていること

これらは、あなたの手元の書類で確認できる。断言を読むより、自分の書類を見たほうが早い。

そして成立していれば、取消は解雇である。

採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる

厚生労働省も同じことを明記している。東日本大震災に伴う労働基準法等に関するQ&A(第3版)からの引用である。震災対応の文脈で作られた資料だが、法解釈の部分は震災に限定した書き方をしていない。

採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定取消しは解雇に当たり、労働契約法第16条の解雇権の濫用についての規定が適用されます。

中途採用にも同じ法理が及ぶことは、厚労省が書いている

「それは新卒の判例でしょう」と言われたときのために、一次資料を押さえておく。

厚生労働省の『雇用指針』(国家戦略特別区域法第37条第2項に基づく法定指針)に、こうある。

上記の法理について、新規学校卒業者の内定取消しに適用した裁判例のほか、外資系企業による中途採用者の内定取消しについても適用した裁判例がある。

その裁判例がインフォミックス事件(東京地裁 平成9年10月31日決定・仮処分/平成9年(ヨ)第21114号)である。同省の『雇用指針に掲載されている裁判例』一覧に、事件名・裁判所・年月日・事件番号まで記載されている。

事案は、中途採用(ヘッドハンティング)で、経営悪化を理由に、入社の2週間前に内定を取り消したというものだ。配属予定の現場がなくなったと言われる状況と、構造がほぼ重なる。

厚生労働省の『確かめよう労働条件』が、判示の骨子をこう紹介している。

採用内定者は現に就労していないが、当該契約に拘束されていて他に就職できないのだから、企業が経営の悪化等を理由に留保した解約権を行使する場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する四要素を総合考慮のうえ…判断すべき

内定を取り消す前後のYの対応には誠実性に欠けるところがあること…内定取消は社会通念に照らし相当と是認することはできない

読み取れることは二つある。**「経営が苦しい」「案件が無くなった」は理由になりうるが、それだけでは足りない。**整理解雇の四要素を通る必要がある。そしてもう一つ、**取消の前後でどう対応したかが判断に入る。**説明を尽くしたか、誠実だったか、が問われている。

「配属予定の現場がなくなった」を、労働条件通知書で切り分ける

ここから施工管理の固有事情に入る。

2024年4月から、労働条件の明示事項に「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」が加わった(労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3)。

一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。

内定によって労働契約が成立しているなら、明示義務はその契約について生じる。つまり、あなたの手元の労働条件通知書には、この欄があるはずだ。

そして現場が消えたとき、この欄の書きぶりで意味が変わる。

変更の範囲が広い

  • 書きぶりの例当社の全施工現場
  • 現場が消えたときの意味配転すれば済む話
  • 会社が取れる手別現場への配属
  • あなたが言えること他の現場への配属を求める

変更の範囲が限定

  • 書きぶりの例◯◯建設現場
  • 現場が消えたときの意味契約の前提が消えた
  • 会社が取れる手整理解雇四要素を通れば取消
  • あなたが言えること四要素を満たすか説明を求める

「当社の全施工現場」のように広く書いてあるなら、ひとつの現場が流れても配転で対応できる話であって、それだけでは内定取消や入社延期の理由にならない。逆に特定の現場に限定して書いてあるなら、その現場の消滅は契約の前提の消滅だが、それでも整理解雇の四要素を通らなければ取消は有効にならない。

そして、明示された条件と実際が違っていた場合には別の条文が効く。労働基準法第15条第2項・第3項である。

前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

転居を伴う配属だった場合、この帰郷旅費の規定まで覚えておく価値がある。

なお、同じ労働条件通知書でも、役職と残業代の扱いについては別の論点がある。役職が付く代わりに残業代が消えるという条件をどう読むかは施工管理の名ばかり管理職で扱った。

なお、労働条件の明示制度そのものと、求人票の書きぶりの確認手順は施工管理の「完全週休2日制」は土日祝休みではないで詳しく扱った。

私が気づいたのは、勤務地ではなく休日の欄だった

正直に書くと、私自身が労働条件通知書で引っかかったのは、勤務地の欄ではない。

内定通知と労働条件通知の細かい中身まではっきり覚えているわけではないのだが、ひとつ、事前の認識と書面にギャップがあった。私は「完全週休2日制(土日休み)」だと認識していたのに、労働条件通知書には単に「週休2日制」としか書かれていなかった。

これでは祝日がある週の土曜日などが出勤日になる可能性がある。だから書面を確認した時点で、企業側に問い合わせた。

内定通知書や労働条件通知書は、多くてもA4用紙で1〜5枚程度の、ごく実務的な書類である。自分の今後の生活や人生に直結することなのだから、読み飛ばさずに細部まで目を通し、疑問があればその時点で確認しておくべきだと思う。

私が気づいたのは休日の欄だった。だが**読み方は同じである。**事前に自分が思っていたことと、書面に書かれている文字を突き合わせる。ずれていたら入社前に聞く。勤務地と業務の欄にも、そのまま使える。

入社日の延期は、説明と同意なしにはできない

「配属現場が決まるまで入社を延ばしてほしい」と言われたときの話をする。

先ほどの厚生労働省Q&Aに、この点への直球の回答がある。

採用内定の際に定められていた入社日自体を延期する措置(入社日の延期)を行う場合は、採用内定者への**十分な説明と同意を得る必要があり、これらを行わないまま入社日の延期をすることはできません。**同意を得て入社日を変更した場合でも、採用内定者の不利益をできるだけ回避するため、延期期間はできるだけ短くするよう努めていただくことが望まれます。

さらに、入社日が到来した後に自宅待機を命じられた場合についても書かれている。

天災事変等の場合を除き、労働基準法第26条に定める休業手当を支払う必要があります。

労働基準法第26条は、平均賃金の6割以上と定めている。

逆に、こちらから延期を頼んだとき相手はどう応じたか

私の場合は方向が逆だった。会社都合の延期ではなく、私のほうから入社日をずらしてほしいと頼んだ。

在職中の会社と関係を悪くして辞めることは避けたかった。だから内定を承諾するタイミングで、「引き継ぎ期間をしっかり確保したい」と伝えて交渉した。

転職先は「1ヶ月後の入社」を希望していた。だが退職を正式に伝えてから引き継ぎを始めると、実質的な期間は1ヶ月を切ってしまう。準備をして引き継ぎを完了させたかったので、入社時期をもう1ヶ月後ろにずらしてもらえないかと申し出た。

返ってきたのは、「現職でしっかりと引き継ぎを終えた上で来てください」という言葉だった。快く受け入れてもらえた。

会社によるところは大きいと思う。ただ、入社日を遅らせてほしいと頼むときは、その理由を誠実に伝えることが重要だと感じた。

そしてこれは、相手を測る機会でもある。会社が延期を求めるときには説明と同意が要る。逆にこちらが延期を求めたときに相手がどう応じるかは、入社前に相手の性格を見られる数少ない場面である。

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争う前に、理由を書面で出させる

内定取消を告げられたとき、多くの記事は「違法かどうか」を論じる。だが読者が明日できることは、もっと手前にある。

厚生労働省Q&Aは、有効性の話とは別に、手続きについても書いている。

使用者は解雇予告等労働基準法に基づく解雇手続を適正に行う必要があるとともに、採用内定者が採用内定取消しの理由について証明書を請求した場合には、遅滞なくこれを交付する必要があります。

該当する条文は二つある。

労働基準法第20条(解雇の予告)

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。

労働基準法第22条第2項(解雇理由の証明書)

労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

**「無効だと争う」より先に「理由を書面で出させる」。**口頭で告げられた理由は、後から変わる。書面にしてもらえば、それが整理解雇の四要素に照らしてどうなのかを、後で検討できる。

逆に、こちらから辞退するとき

内定によって労働契約が成立しているなら、辞退はこちら側からの解約の申入れになる。民法第627条第1項が定めている。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

法律上は2週間前の申入れで足り、企業の承諾は要らない。

損害賠償を請求されるかについては、条文を確認した範囲でこう言える。受け皿になり得るのは民法第709条(不法行為)と第415条(債務不履行)の一般則だけで、内定辞退を名指しで制裁する規定は、労働基準法にも職業安定法にも労働契約法にも存在しない。

(なお、「内定辞退で賠償が認められた」とされる事件がいくつか紹介されているが、裁判所ウェブサイトの判例データベースにも厚生労働省の裁判例集にも収録されておらず、一次資料で確認できなかった。しかも紹介のされ方自体が「請求棄却」あるいは「著しく信義則に反する場合でなければ認められない」という否定方向のものである。事件名を挙げての解説は、この記事ではしない)

だが、私を縛っていたのは法律ではなかった

ここまで条文を並べておいて言うのもおかしいが、実際に辞退したときの話をする。

私は複数内定を同時に持っていたわけではない。ただ、面接を3〜4回重ねて内定をいただいた会社を、最終的に辞退した。

この連絡には、非常に勇気が必要だった。

怖かったことは二つある。ひとつは、面接の段階から熱意を持って臨み、先方からも「ぜひ来てほしい」と歓迎していただいていたことだ。その期待を覆す判断をするのは、相手の信頼を裏切るようで怖かった。もうひとつは、「二枚舌だ」と思われるのではないかという恐怖である。

それでも辞退したのは、こう考えたからだ。自分や家族の今後の人生を考えたとき、「断るのが怖い」という目先の理由だけで入社を決めてしまえば、後々大きな後悔につながる。だからその場限りの恐怖心には負けないように自分を律した。

伝え方についても書いておく。内定通知からの回答期限は1週間と設定されていた。だが回答をギリギリまで引き延ばすのは先方企業にとって負担や迷惑になると考え、決断してからは2〜3日中に速やかに伝えた。

ここで気づいてほしい。この一連に、民法第627条の「2週間」は一度も出てこない。

法律は2週間と言い、企業は1週間と言い、私は2〜3日で動いた。実務で人を縛っていたのは、条文でも期限でもなく、期待を裏切るという感覚のほうだった。

だから条文を知る意味は、辞退できるかどうかを判定するためではないと思う。「断るのが怖い」以外の理由で決めているかどうかを、自分に問い直すための足場として効く。複数の選択肢を持って比較する進め方は施工管理の転職で複数内定を取る方法に書いた。

権利は同じ、数える仕組みだけが無い

最後に、冒頭の話に戻る。

新卒者の内定取消には、ハローワークへの通知義務がある。職業安定法施行規則第35条第2項である。

新たに卒業しようとする者(以下この項において「新規学卒者」という。)を雇い入れようとする者は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、あらかじめ、公共職業安定所及び施設の長…にその旨を通知するものとする。 二 新規学卒者の…内定期間…に、これを取り消し、又は撤回するとき。 三 新規学卒者について内定期間を延長しようとするとき。

企業名の公表制度もある。同規則第17条の4第1項だが、こちらも対象は「学生生徒等」である。公表される基準は厚生労働省が定めており、「内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき」「就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき」が含まれている。

そして、これらの条文の名宛人はすべて新規学卒者・学生生徒等に限定されている。運用の手落ちではなく、そう設計されている。

新卒

  • 労働契約法16条の保護及ぶ
  • 労基法20条の解雇予告及ぶ
  • ハローワークへの通知義務あり
  • 入社延期の通知義務あり
  • 企業名の公表あり得る
  • 説明不足が公表事由になるかなる

中途

  • 労働契約法16条の保護同じく及ぶ
  • 労基法20条の解雇予告同じく及ぶ
  • ハローワークへの通知義務なし
  • 入社延期の通知義務なし
  • 企業名の公表ない
  • 説明不足が公表事由になるかならない

権利は同じである。守っている法律も同じである。だが中途採用の内定取消は、誰にも通知されず、統計にも載らず、企業名も出ない。

だから、自分で証拠を取り、自分で言うしかない。

まとめ

  • 中途採用の内定取消について公的な統計は存在しない。国が集計する仕組み自体が無いため。「厚労省の調査によると年間約40〜50件」等の数字は出典を辿れない

  • 最高裁は「内定=労働契約成立」と断言していない。「一義的に論断することは困難」「事実関係に即して検討する必要がある」(大日本印刷事件 最二小判 昭54.7.20)。手元の書類(内定通知書・誓約書・入社日の指定・他社辞退の指示)を確認するほうが早い

  • 成立していれば取消は解雇であり、労働契約法16条が適用される(厚労省Q&Aが明記)

  • 中途採用にも同じ法理が及ぶことは厚労省『雇用指針』が明記している。該当裁判例はインフォミックス事件(東京地裁 平9.10.31決定・仮処分)で、中途採用・経営悪化・入社2週間前という事案

  • 同事件は整理解雇の四要素での判断を求め、かつ取消前後の対応の誠実性を判断材料にしている

  • 2024年4月からの「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」の明示(労基則5条1項1号の3)で、現場消滅の意味を切り分けられる。範囲が広く書いてあれば配転で済む話であり、それだけでは取消の理由にならない

  • 明示条件と実際が違えば即時解除でき、住居を移していれば帰郷旅費は会社負担(労基法15条2項・3項)

  • 入社日の延期は「十分な説明と同意」なしにはできない(厚労省Q&A)。入社日到来後の自宅待機は原則として休業手当の対象(労基法26条)

  • 争う前に理由の証明書を請求する(労基法22条2項)。解雇予告は労基法20条。口頭の理由は後から変わる

  • 辞退する側は民法627条1項で2週間。企業の承諾は不要。内定辞退を制裁する明文はどの労働法令にも無い

  • ただし実務で人を縛るのは条文ではない。私の場合、法律は2週間、企業の回答期限は1週間、実際は2〜3日で伝えた。条文は「断るのが怖い」以外の理由で決めているかを問い直す足場として効く

  • 権利は新卒と同じ。だがハローワークへの通知義務も企業名公表も中途には無い(職安則35条2項・17条の4の名宛人は新規学卒者・学生生徒等)。自分で証拠を取り、自分で言うしかない

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