「うちは業務委託でお願いしています」
転職の面談で、あるいは今の会社から、そう切り出されることがある。手取りが増えると説明されることも、経費で落とせると説明されることもある。
判断の前に押さえておくべきことが二つある。ひとつは、契約の目的が建設工事の完成である場合、契約書の表題が何であれ建設業法は請負契約として扱うということ。もうひとつは、労働基準法上の労働者かどうかは契約の名前ではなく実態で判断され、その判断について建設業を扱った行政の報告が存在するということだ。
先に断っておく。その報告が直接検討しているのは建設業の「手間請け」従事者であって、施工管理職そのものではない。施工管理を名指しした行政の判断基準は存在しない。この記事では、建設業の実態を踏まえた最も近い参考資料として読む。
金額の損得の話はしない。一次確認できる公的な試算が存在しないからだ。
契約の目的が「建設工事の完成」なら、名義を問わず請負契約とみなされる
まず条文を読む。建設業法24条である。
(請負契約とみなす場合) 第二十四条 委託その他いかなる名義をもつてするかを問わず、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は、建設工事の請負契約とみなして、この法律の規定を適用する。
条件は「報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約」であること。この条件を満たすなら、表題が業務委託契約書でも準委任契約書でも、建設業法上は請負契約として扱われる。許可、技術者の配置、施工体制台帳といった規律は、契約の呼び方では外れない。
逆に言えば、24条はあらゆる業務委託を請負契約に変える条文ではない。施工管理・助言・調整といった役務の提供のみを給付内容とする契約が、当然に24条の適用を受けるとは限らない。適用の有無は、契約上の給付が何なのかで決まる。
だから提示を受けたら、自分の契約の給付内容が何と書かれているかを確認することになる。これは後述の労働者性の判断とは別の軸の話で、混同しないほうがいい。
「労働者かどうか」は、契約の名前ではなく実態で決まる
労働基準法9条は、労働者をこう定義している。
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
ここにも契約形式の話は出てこない。「使用される者で、賃金を支払われる者」という実態が要件である。
したがって、業務委託契約を結んでいても実態が労働者なら労働基準法が適用されるし、逆もある。問題は、その判断が容易ではないことだ。
建設業の実態を踏まえた報告が、判断要素を具体化している
労働者性の一般的な判断基準は昭和60年の労働基準法研究会報告が示している。多くの解説記事が引くのはこちらだ。厚生労働省はこれに加えて、建設業の手間請け従事者について、より具体化した報告を出している。
建設業手間請け従事者及び芸能関係者に関する労働基準法の「労働者」の判断基準について(労働基準法研究会 労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告・平成8年3月)である。
繰り返しになるが、この報告は施工管理職を直接の対象にしていない。同報告が定義する「手間請け」は、工事の種類・坪単価・工事面積等により総労働量と総報酬の予定額が決められ、労務提供の実績に応じた割合で報酬を支払う労務提供方式を指す。施工管理の業務委託を判断するときは、建設業の実態を踏まえた近い参考資料として使うことになる。
そのうえで、この報告の有用なところは、建設業では日常的に起きることについて、それを労働者性の判断にどう扱うかを個別に述べている点にある。
工程についての他の職種との調整を元請け、工務店、専門工事業者、一次業者の責任者等が行っていることは、業務の性格上当然であるので、このことは業務遂行上の指揮監督関係の存否に関係するものではない。
勤務場所が建築現場、刻みの作業場等に指定されていることは、業務の性格上当然であるので、このことは直ちに指揮監督関係を肯定する要素とはならない。
勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には指揮監督関係を肯定する要素となる。ただし、他職種との工程の調整の必要がある場合や、近隣に対する騒音等の配慮の必要がある場合には、勤務時間の指定がなされたというだけでは指揮監督関係を肯定する要素とはならない。
設計図、仕様書、指示書等の交付によって作業の指示がなされている場合であっても、当該指示が通常注文者が行う程度の指示等に止まる場合には、指揮監督関係の存在を肯定する要素とはならない。他方、当該指示書等により作業の具体的内容・方法等が指示されており、業務の遂行が「使用者」の具体的な指揮命令を受けて行われていると認められる場合には、指揮監督関係の存在を肯定する重要な要素となる。
読み方を整理しておく。「建設業だから何も判断材料にならない」ではない。要素ごとに扱いが違う。
判断要素は6つの束で並んでいる
同報告が挙げる判断要素は、次のように整理される。勤務時間・場所の拘束性は、判断軸から外れているわけではない。
| # | 要素 | 肯定側 | 否定側 |
|---|---|---|---|
| 1 | 仕事の依頼・業務従事指示への諾否の自由 | 断れない | 断れる |
| 2 | 業務内容・遂行方法への具体的な指揮命令 | 作業の具体的内容・方法まで指示される | 注文者が通常行う程度の指示に止まる |
| 3 | 勤務時間・場所の拘束性 | 勤務時間が指定・管理されている | 労務の量と配分を自ら決められる |
| 4 | 代替性 | 本人以外が代われない・補助者を使えない | 自分の判断で補助者を使える |
| 5 | 報酬の労務対償性 | 時間給・日給・月給など時間が単位 | 出来高(それだけでは否定要素にならない) |
| 6 | 補強要素 | 特定企業への長期専属/給与所得としての源泉徴収 | 据置式の高価な器具の所有/施工の遅延等の損害を負う/独自の商号 |
読み違えやすい点を三つ挙げる。
諾否の自由——「断ると次から仕事が来なくなる」という事実上の制約は、それだけでは指揮監督関係を肯定する決め手にならない、と報告は述べている。契約内容や制限の程度を勘案する必要があるとされる。
拘束性——勤務時間の指定・管理は一般には肯定要素である。工程調整や騒音配慮による指定は例外的に肯定要素にならないというだけで、拘束されていること自体が意味を失うわけではない。
報酬——出来高で計算されることや、請求書を提出させることは、それだけでは使用従属性を否定する要素にならないと明記されている。「請求書を出しているのだから事業者だ」という説明は、この報告の読み方ではない。
同じ「現場で働く大工」で、結論が正反対になった2例
報告には事例が載っている。どちらも現場に出て、工程に沿って、元請の調整の下で働いている。それでも結論は逆になる。
事例1・住宅建築の大工A — 労働者である
業務従事の指示に諾否の自由が無く、作業マニュアルで具体的な手順まで指示され、事実上毎日8時から17時まで働いており勤務時間に実質的な拘束がある。補助者を自分の判断で使うことも認められていない。報告はこれらを挙げて「使用従属性がある」と判断した。工具を自己負担していること、社会保険に入っていないこと、事業所得として申告していることは労働者性を弱める要素だが、上記の判断を覆すものではないとされている。
事例2・中層ビルの型枠大工B — 労働者ではない
仕事の依頼を断ることがあり、施工方法は自分で判断し、勤務時間に拘束されず、自分の判断で補助者を使うのが自由。据置式の高価な工作機械を自ら所有している。報告はこれを「使用従属性はない」と判断した。
労働者性の判断は総合判断であり、「この条件を満たせば労働者だ」と断定できる性質のものではない。報告自身が「〜は肯定する要素となる」「〜は否定する要素となる」という書き方で通している。
私が提示されたのは、業務委託ではなく契約社員だった
ここで自分の話を書く。
私は転職活動中、業務委託や請負、個人事業主としての契約を提示されたことは基本的に無かった。ひとつだけ近いものがあって、ある企業の特定プロジェクトに紐づいた契約社員という形の提示を受けたことがある。私はこれを辞退した。
契約社員は有期の雇用契約であって、業務委託ではない。同じものとして語ることはできないので、そこは分けて書く。
それでも、判断した局面は同じだった。提示された働き方の形そのものを、受けるかどうか決める場面である。私が引っかかったのは待遇ではなく、「特定プロジェクトへの」という限定だった。始まる前から終わりが決まっている契約を、自分のキャリアの時間軸に対してどう置くか——結論として、私はそこに自分の数年を預けなかった。
業務委託の提示を受けた人が判断すべきことも、構造としては同じだ。手取りが増えるかどうかの前に、その形で働いた数年が自分の職歴にどう残るかを見ることになる。
提示されたら、その場で確認できること
労働者性の判断は総合判断なので、面談の場で結論は出ない。ただし確認できることはある。
2024年11月1日に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、業務委託をした事業者に対して条件の明示を義務づけている。
業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、…特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により…明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により…明示しなければならない。(同法3条1項)
原則の期限は「直ちに」である。ただし条文にはただし書があり、内容が定められないことに正当な理由がある事項は、その時点での明示を要さず、確定した後に直ちに明示するという例外が置かれている。
したがって「まだ書面が無い」こと自体が直ちに違法とは限らない。確認すべきは、書面が出ない理由と、いつ確定して明示されるのかである。
この一覧は性質の違う2種類の質問が混ざっているので、分けて扱ったほうがいい。給付の内容・報酬の額・支払期日はフリーランス法3条1項が明示を求めている法定明示事項である。一方、指示の粒度・勤務時間の指定・代替性・報酬の計算方法・損害の負担は、労働者性がどう判断されうるかを自分で確かめるための質問であって、会社に回答義務があるものではない。
法定明示事項について書面が出ない場合は、その理由と明示の時期を聞く。労働者性に関わる質問は、答えの内容そのものより、確認した結果として何が分かったかを判断材料にする。答えが曖昧なまま「まずは来てもらってから」と言われるなら、それも一つの材料である。
まとめ
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契約の目的が建設工事の完成である場合、名義を問わず建設業法上は請負契約とみなされる(建設業法24条)。役務の提供のみを給付とする契約に当然に適用されるわけではない
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労働基準法上の労働者かどうかは契約の名前ではなく実態で決まる(労基法9条)
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建設業の手間請け従事者について、判断要素を具体化した報告がある(平成8年3月・厚生労働省)。施工管理職を直接対象にした基準ではないため、近い参考資料として読む
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判断要素は諾否の自由・具体的な指揮命令・勤務時間や場所の拘束性・代替性・報酬の労務対償性・補強要素の6つの束。拘束性は判断軸から外れていない
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建設業で当然に起きること(元請による工程調整、現場の指定、通常の注文者程度の図面指示)は、要素ごとに扱いが異なる。一律に無意味になるわけではない
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業務委託の条件は原則として「直ちに」書面等で明示する義務がある(フリーランス法3条1項)。ただし内容が定められないことに正当な理由がある事項は、確定後に直ちに明示するというただし書がある
数字の損得は人によって変わるし、公的な試算も無い。だがどの要素で判断されるかは公表されている。提示を受けたら、まずそこに当てはめてみることだ。