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施工管理の職務経歴書|現場名と請負金額はどこまで書けるか

公開日 2026-08-24調査番号 R-article-117

「延床◯㎡・請負◯億円・協力会社◯社を統括」——職務経歴書にはそう書けと、書き方の記事を含めどのメディアも書いている。いざ書こうとして手が止まる。この金額、外に出していいのか。 現場名は。発注者名は。

多くの人はここで「書類ではA社と伏せておいて、面接で口頭で伝えればいい」に落ち着く。その運用は、法の側から見ると根拠がない。 成り立っているとすれば、まったく別の理由による。

判断の起点は、誓約書ではなく営業秘密の定義にある

まず思い出すのは入社時に署名した誓約書だろう。だがそこから入っても答えは出ない。書いてあるのは「秘密を守れ」だけだからだ。

このサイトの書き手が入社時に署名した誓約書には、こうあった。

職務上知り得た情報を外部へ公開・公表してはならない

面接で前職の顧客名を口頭で伝えることが、この「外部へ公開・公表」に当たるのか。この一文からは判断できない。 手元にある紙も、おそらく同じ状態のはずだ。

法の側には定義がある。

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。(不正競争防止法第2条第6項)

秘密管理性・有用性・非公知性。ひとつでも欠ければ営業秘密ではない。3要件そのものの解説は競業避止義務の記事で扱ったので、ここでは職務経歴書という場面への当てはめに絞る。

効いてくるのは逆向きの帰結のほうだ。誓約書に守秘義務条項があっても、秘密管理性を欠く情報は保護の対象にならないとされた事案がある。経済産業省の資料に引用されているもので、秘密保持義務の対象となる秘密の内容が具体的に定められていなかったケースについて、問題になった情報は秘密管理性を欠くから秘密保持義務の対象に当たらず、義務違反は成立しないと判断されている(東京地判 平成24年3月13日)。

そして、包括的な書きぶりそのものについて、経済産業省の営業秘密管理指針が注意を促している。

「職務上知り得た情報全て」「事務所内の資料全て」といった形で秘密表示等を行っているにもかかわらず、情報の内容から当然に一般情報であると従業員が認識する情報が著しく多く含まれることによって、「秘密管理措置の形骸化」と評価されないように注意する必要がある。(営業秘密管理指針・脚注19)

指針が形骸化の例として挙げている文言と、冒頭に引いた誓約書の文言は、ほぼ同じである。

では何があれば「秘密として管理されている」ことになるのか。指針はこう定める。

秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有者の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。

必要な程度は「従業員等がそれを一般的に、かつ容易に認識できる程度」。紙媒体なら「マル秘」等の表示、施錠できるキャビネットや金庫での保管が例に挙がっている。会社が主観的に秘密だと思っているだけでは足りない、とも明記されている。

ここから、施工管理の実務に直接効く帰結がひとつ出る。頭の中にあるものは、そのままでは営業秘密になりにくい。

例えば、技能・設計に関するものなど従業員が体得した無形のノウハウや従業員が職務として記憶した顧客情報等については、従業員の予見可能性を確保し、職業選択の自由にも配慮する観点から、原則として、下記のような形で、その内容を紙その他の媒体に可視化することが必要となる。

ここでいう「下記のような形」として指針が挙げているのは、営業秘密のカテゴリーをリストにすること、営業秘密を具体的に文書等に記載すること、の2つである。

理由も書かれている。可視化しないまま使用を禁じると「いかなる情報の開示・持ち出しが禁じられているのかが明確でなく、転職自体が困難となりかねない」からだ。段取りの組み方も、協力会社をどう動かしたかも、体得した知見である。会社がそれをリスト化も文書化もしていないなら、秘密管理性を満たさない方向に働く。

ただし指針が言っているのは「原則として」である。同じ箇所には例外も書かれている。情報の性質や、その営業秘密を知りうる従業員の多寡などから範囲が従業員にとって明らかな場合には、内容そのものが可視化されていなくても、範囲やカテゴリーを口頭または書面で伝えることで認識可能性は確保されうる、とされている。可視化されていなければ必ず対象外、という話ではない。

公共工事の工事名と契約金額は、発注者が公表している

ここからが施工管理に固有の話になる。

公共工事——国、特殊法人等、地方公共団体が発注する建設工事のことだ(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律第2条第2項)——については、発注者の側に公表義務がある。国は同法第5条、地方公共団体の長は第8条で、いずれも「公表しなければならない」と定められている。特殊法人等については第6条があるが、こちらは書き方が違い、前二条の規定に準じて「情報を公表するため必要な措置を講じなければならない」となっている。以下で見る政令の列挙は、国と地方公共団体についてのものである。

各省各庁の長は、政令で定めるところにより、次に掲げる事項を公表しなければならない。 二 契約の相手方の商号又は名称、契約金額その他の政令で定める公共工事の契約の内容に関する事項(同法第5条第2号。地方公共団体については第8条第2号に同文)

その政令が、公表事項を列挙している。国の分も地方公共団体の分も同じ文言である。

九 次に掲げる契約の内容  イ 契約の相手方の商号又は名称及び住所  ロ 公共工事の名称、場所、種別及び概要  ハ 工事着手の時期及び工事完成の時期  ニ 契約金額 (同法施行令第4条第2項第9号/第7条第2項第9号)

工事名。場所。種別と概要。着工と竣工の時期。契約金額。元請の商号と住所。国と地方公共団体は、これらを公表する。

意味するところははっきりしている。3要件のうち非公知性が最初から欠けている。公然と知られている情報を職務経歴書に書いても、不正競争防止法上の営業秘密を開示したことにはならない。

ただし、ここで外れるのは不正競争防止法の話に限られる。誓約書や秘密保持契約が課している義務は、その情報が営業秘密に当たるかどうかとは別に存在しうる。 営業秘密ではないと言えることと、契約上も自由に書けることは、同じではない。順序としては、まず営業秘密の側で線を引き、そのうえで自分が署名した書面と社内規程を確認する——この2段階になる。

応募書類のガイドはたいてい「クライアント名は伏せ字(A社)に」と書く。一般論としては理解できる。だが公共工事の実績にまでそれを適用すると、発注者自身が公表している情報を隠すことになる。 少なくとも「営業秘密だから伏せる」という根拠は、そこには無い。契約や社内規程の側に別の理由があるなら話は別だが、それは確認して初めて分かることだ。

営業秘密に当たるかどうかは、工事の性格で分かれる

公共工事

  • 工事名・場所発注者が公表する
  • 契約金額発注者が公表する
  • 契約の相手方元請の商号と住所を公表する
  • 工期着手と完成の時期を公表する
  • 原価・見積内訳公表されない

民間工事

  • 工事名・場所公表制度は無い
  • 契約金額公表制度は無い
  • 契約の相手方公表制度は無い
  • 工期公表制度は無い
  • 原価・見積内訳公表されない

出典:公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律施行令第4条第2項第9号

ただし、この線は無条件に引けるものではない。条文を読むと、射程は3か所で切れる。

一つ目。公表されるのは「契約の相手方」である。 発注者と直接契約した者、つまり元請だ。JVならその構成員。下請として現場に入った技術者の場合、自社の商号は公表事項に含まれない。 工事名も工期も契約金額も公表されているのに、そこに自分の会社が関わっていたことだけは公表されていない、という状態がありうる。この差は書きぶりに直結する。

二つ目。除外される工事がある。 予定価格が400万円を超えない工事は対象外だ。加えて、国については「国の行為を秘密にする必要があるもの」、地方公共団体については「公共の安全と秩序の維持に密接に関連する公共工事であって当該地方公共団体の行為を秘密にする必要があるもの」が除かれている(同施行令第4条第2項・第7条第2項)。

三つ目。公表期間には下限しか定めがない。 公表した日の翌日から起算して1年間は掲示または閲覧に供するとされている(同第4条第6項・第7条第6項)。裏を返せば、それ以降も見られる保証は無い。一度公然と知られた情報が秘密に戻るわけではないが、「今も公開されているから大丈夫」という確認の仕方はできない。

民間工事で線が引かれるのはどこか

民間工事には、これに当たる公表制度が無い。非公知性は自分で判定するしかない。

順序はこうなる。

  1. 自社が公開しているか。 施工実績ページ、プレスリリース、有価証券報告書。会社自身が外に出している実績は、会社の側が非公知性を手放している

  2. 発注者が公開しているか。 マンション名や商業施設の完成告知など、建物の側から公になっている場合がある

  3. どちらにも無ければ、伏せる

出せない情報の典型は、発注者の担当者名、原価・単価・見積内訳、未公表案件、図面データである。このうち原価と見積内訳は、公共工事でも公表されない。公共か民間かで分かれるのは契約の外形であって、中身の数字ではない。

一方、伏せた場合でも残るものはある。構造、規模、用途、工期、そして自分が実際に動かした範囲。ここは工事の性格を問わない。

同じ判定は、生成AIに書類を書かせるときにもそのまま効く。入力してよい情報の線引きはAIで職務経歴書を作る記事で扱っている。

注意点はここでも同じだ。会社が公開している範囲と、あなたが負っている契約上の義務の範囲は、必ずしも一致しない。「載っているから書いてよい」と機械的に結論を出さないほうがいい。 非公知性が欠けていることは、営業秘密ではないと言うための材料であって、それ以上のものではない。

伏せるなら、金額は「比率」に変える

伏せると決めた情報を、そのまま空欄にする必要はない。

ここから先は施工管理の現場の話ではない。このサイトの書き手は施工管理の実務経験を持たないが、転職のプロセスそのものは当事者として通っている。その範囲での話になる。

営業職として職務経歴書を書いたときの処理は、こうだった。前職の受注額について、金額そのものは書いていない。書いたのは昨年対比、目標達成率、年間売上目標に対する達成度である。

比率は、母数を知らない読み手には元の金額を復元しにくい。 それでいて実績の大きさは伝わる。表現上の工夫として、職種を問わず流用できる。

ただし、これを安全策として扱わないほうがいい。比率そのものが秘密情報であることがある。 原価低減率は利益構造を示すし、目標達成率は目標値が知られていれば実額に戻る。金額を比率に置き換えれば守秘の問題が消える、という関係にはなっていない。置き換えた先の数字についても、前の2節と同じ判定が要る。

そのうえで、施工管理に置き換えるとこうなる。いずれも「代わりに検討できる表し方」であって、無条件に書けるものではない。

書けないとき代わりに書けるもの
請負金額の絶対額前年比・工期短縮率・原価低減率
発注者名・案件名構造・規模・用途・工期
体制の内訳協力会社数・管理項目数・統括人数

職務経歴書の書き方では、現場経験を数字に翻訳せよと書いた。この記事はその続きになる。その数字は、絶対額でなくてもよい。 ただし置き換えた先の数字にも、同じ確認が要る。

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「クローズドの場ですが」は、何も守っていない

多くの転職者がやっている運用がある。このサイトの書き手も、同じことをしていた。

Web上のプロフィールや初期の書類では「大手企業A社」「B社」と匿名で書く。そして具体的な企業への提出や面接の場面で、「クローズドの場としてお答えしますと、実は〇〇社です」と口頭で伝える。段階的に開示していく運用である。

実務的には賢いやり方だ。誰でも見られる場所に出すのと、目の前の相手ひとりに伝えるのとでは、情報の広がり方がまるで違う。相手にも具体的なイメージを持ってもらえる。

だが、法の側から見ると、この前置きは何も変えていない。

解釈の話ではない。条文にそう書いてある。不正競争防止法は「開示」の意味を、第2条第1項第4号の括弧書きで定義している。

開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。次号から第九号まで、第十九条第一項第七号、第二十一条及び附則第四条第一号において同じ。)

「秘密を保持しつつ特定の者に示す」。「クローズドの場としてお答えしますと」は、その説明そのものである。 法はこれを開示から除外していない。最初から開示に数えている。しかもこの定義は、元従業員に効く第7号にも、罰則の第21条にも及ぶと明記されている。

つまり「クローズドだから開示に当たらない」は成り立たない。成り立つのは、「そもそも営業秘密ではないから、不正競争防止法の問題にならない」だけである。

ここで、逆方向の注意も要る。開示に当たることと、違法であることは別だ。

営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為(同法第2条第1項第7号)

「不正の利益を得る目的」「損害を加える目的」——目的の要件が付いている。 面接で自分の職歴を説明することが、直ちにここに当たるわけではない。営業秘密管理指針も、体得した情報について「転職後の使用・開示によって、直ちに、民事上の措置及び刑事罰の対象となるわけではない」とし、信義則上の義務に著しく反すると評価される場合に限られるとしている。

罰則についても同じ注意が要る。営業秘密侵害罪の法定刑は10年以下の拘禁刑または2000万円以下の罰金で、併科もある。数字だけ見れば重い。ただし退職者について刑事罰の対象になるのは、在職中に開示の申込みをしていたか、使用または開示について請託を受けていた場合である(同法第21条第2項第4号)。転職後に自分の判断で話した元従業員は、この構成要件に入らない。民事で問題になりうる範囲と、刑事罰の範囲は一致しない。

整理するとこうなる。前置きは、開示に当たるかどうかを動かさない。動かすのは、その情報が営業秘密かどうかと、目的である。話し方は、この判定のどこにも入ってこない。

そしてここで公共工事の話に戻る。施工管理には、営業秘密の線の外に、最初から出ている情報がまとまって存在する。 工事名も、場所も、工期も、契約金額も、発注者が法律に基づいて公表している。少なくとも「営業秘密だから言えない」という理由は、そこには無い。

だから、前置きで安全を作ろうとする前に確認すべきものがある。その情報が線のどちら側にあるのか。そして、自分が署名した書面が何を求めているのか。 順序はその2つで、「クローズドの場ですが」はそのどちらにも影響しない。

盛る方向の壁と、伏せる方向の壁は別物である

経歴詐称の記事で扱ったのは、実績を大きく書くことの限界だった。この記事は逆方向、開示の限界である。同じ職務経歴書の、反対側の壁だ。

混同されやすいので書いておく。伏せることは詐称ではない。 書かない自由は常にある。守秘義務を理由に案件名を伏せた職務経歴書が、それだけで不正確になるわけではない。

ただし限度はある。伏せた結果、その実績が本当に自分のものなのか読み取れなくなるなら、それは守秘の問題ではなく書き方の問題だ。そこは書き方の記事に戻ることになる。

もうひとつ、この記事の外側にある論点にも触れておく。転職先から、入社後に前職の顧客や協力会社へアプローチすることを期待される場面がある。これは開示ではなく営業秘密の使用の問題であり、競業避止義務とも重なる。扱いは競業避止義務の記事に譲る。

まとめ

  • 判断の起点は誓約書ではなく、営業秘密の3要件(不正競争防止法第2条第6項)。誓約書には「秘密を守れ」としか書かれておらず、それだけでは何を書けるか判断できない

  • 秘密管理性を欠く情報は、守秘義務条項があっても保護の対象にならないとされた事案がある。「職務上知り得た情報全て」という包括的な書きぶりは、経済産業省の指針が「秘密管理措置の形骸化」の例として名指ししている

  • 体得したノウハウや記憶した顧客情報は、会社が紙などに可視化していなければ原則として秘密管理性を満たさない。指針はその理由に「転職自体が困難となりかねない」ことを挙げている。ただし範囲が従業員にとって明らかな場合の例外も同じ箇所に書かれており、可視化が無ければ必ず対象外というわけではない

  • 公共工事の工事名・場所・種別・工期・契約金額・元請の商号は、発注者が法律に基づいて公表している(入契法第5条・第8条/同施行令第4条第2項第9号・第7条第2項第9号)。非公知性を欠くため、営業秘密の定義から外れる。なお特殊法人等については第6条が「必要な措置を講じなければならない」と定める形で、条文の書き方が異なる

  • 営業秘密に当たらないことと、契約上も書けることは別である。 誓約書・秘密保持契約・社内規程の義務は不正競争防止法とは別に存在しうる。まず営業秘密の側で線を引き、次に自分が署名した書面を確認する

  • ただし公表されるのは元請であり、下請として入った技術者の自社名は入らない。予定価格400万円以下の工事と秘密を要する工事は除外され、公表期間の下限は1年

  • 民間工事は自分で判定する。順序は「自社の公開 → 発注者の公開 → どちらも無ければ伏せる」。原価と見積内訳は公共工事でも公表されない

  • 伏せるなら、金額を比率に置き換える手がある。 母数を知らない読み手には元の金額を復元しにくい。ただし比率そのものが秘密情報であることもある(原価低減率・目標達成率など)ため、置き換えた先にも同じ判定が要る

  • 「クローズドの場ですが」という前置きは、法的には何も変えない。 法は「秘密を保持しつつ特定の者に示すこと」を明文で開示に含めている(第2条第1項第4号)。不正競争防止法の側で問題にならないのは、その情報がそもそも営業秘密でないときだけである。契約側の確認は、それとは別に要る

  • 開示に当たることと違法であることは別。第7号も罰則も図利加害目的を要件としており、経歴を説明することが直ちに違反になるわけではない。退職者の刑事罰は、在職中の開示の申込みまたは請託が要件であり、民事で問題になりうる範囲とは一致しない

  • 伏せることは詐称ではない。書かない自由は常にある

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