面接で、「将来的にはそういう仕事にチャレンジする機会もある」と言われた。求人票には無かった話で、面接の場で、部門を統括する立場の人の口から出た。
その話は本当だった。会社の中に、その仕事をしている部門は実際にあった。それでも私は、その仕事に一度も就かなかった。
失敗体験を書くシリーズの2本目である。前回は退職願を突き返された話を書いた。今回は、面接で聞いた話が実現しなかった話で、会社が嘘をついたのではない場合に何が起きるかを書く。
結論を先に書く。面接で言われたことのうち、労働条件通知書に載るのは「入社直後にやる業務」と「その後に変わりうる範囲」だけである。「将来的にはチャレンジできる」は、会社がその変更を見込んで変更の範囲に書かない限り、どちらの欄にも載らない。そして書面に載らなかった話が、入社後に会う人に引き継がれる保証は無い。だから、その機会が約束されているのかどうかを、書面と説明で確認しておく必要がある。
仕事の内容は、入口の1位であり、男性では出口の1位
厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」(個人調査)は、転職者が今の勤め先を選んだ理由を聞いている(3つまでの複数回答)。
出典:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」個人調査 表21-1
一方、同じ調査で自己都合により前の会社を辞めた理由を見ると、「満足のいく仕事内容でなかったから」は総数で26.0%、男では28.4%で、男の1位である。
仕事の内容は、転職先を選ぶ理由の1位であり、男性の自己都合離職では辞めた理由の1位でもある(総数では「労働条件(賃金以外)」28.2%が1位で、仕事内容は2位)。入口と、少なくとも男性の出口で、最も効いている項目だ。そして「自分の技能・能力が活かせるから」が2位に来ている。私が面接で聞いた話は、まさにこの2つに当たる話だった。
なお、この調査は2020年10月1日時点のもので、2026年9月時点で公表されている最新の調査年である。
書面に載る業務は、2種類しかない
労働基準法第15条第1項は、使用者が労働契約の締結に際して労働条件を明示しなければならないと定め、賃金・労働時間などの事項は厚生労働省令で定める方法で明示するよう求めている。その省令が労働基準法施行規則第5条で、明示事項の一つにこう書かれている。
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)
この「変更の範囲」は2024年4月に加わった。同条第3項・第4項により、この事項は書面の交付等による明示が要る。
厚生労働省のモデル労働条件通知書を見ると、業務についての欄は「従事すべき業務の内容」の一つで、その中が「(雇入れ直後)」と「(変更の範囲)」に分かれている。記載上の注意にはこうある。
「就業の場所」及び「従事すべき業務の内容」の欄については、雇入れ直後のもの及び将来の就業場所や従事させる業務の変更の範囲を明示すること。
つまり、書面に載る業務は2種類しかない。入社直後にやる業務と、その後に変わりうる範囲。それ以外の欄は無い。なお同条第1項には「職業訓練に関する事項」(第8号)もあるが、これは会社に定めがある場合に明示する事項で、書面交付の対象でもなく、業務の欄とは別の話である。
「将来的には」が変更の範囲に入るかは、会社の見込み次第
では「将来的にはチャレンジする機会もある」は、どちらの欄に入るのか。
厚生労働省の施行通達(令和5年10月12日 基発1012第2号)は、それぞれをこう定義している。
「就業の場所及び従事すべき業務」とは、労働者が通常就業することが想定されている就業の場所及び労働者が通常従事することが想定されている業務をいい
「変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、当該労働契約の期間中における就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲をいうものであること。
「雇入れ直後」の欄に載るのは、通常従事することが想定されている業務。「変更の範囲」に載るのは、今後の見込みも含めた変更の範囲。
「将来的にはチャレンジする機会もある」は、通常想定されている業務ではない。だから直後の欄には載らない。そして会社がその変更を見込んでいなければ、変更の範囲にも載らない。面接官が本当のことを言っていても、会社が制度として見込んでいなければ、書面上はどこにも存在しない話になる。
厚生労働省のQ&Aは、有期契約の更新後の期間について、こう書いている。
労働者のキャリアパスを明らかにする等の観点から、更新後の契約期間中における変更の範囲について積極的に明示することは考えられる。
この記述の射程は、有期契約の更新後の期間に限られる。無期契約や現在の契約期間内まで「キャリアパスは任意」と言えるわけではない。ただ、明示義務の外側にある将来の話を書くかどうかは会社の判断に委ねられている、という構造はここに現れている。
もう一つ、押さえておくべき条文がある。労働基準法第15条第2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合に労働者は即時に労働契約を解除できると定めている。求人票と労働条件が違うときの記事でこの条文を扱った。
注意したいのは、この条文が「書面に無いから使えない」という作りではないことだ。労働契約は口頭でも成立する。面接で具体的な労働条件が示され、それに合意して入社したのなら、書面に載っていなくても「明示された労働条件」になりうる。分かれ目は、その発言が具体的な労働条件の明示だったのか、単なる可能性の説明だったのかである。私の場面がどちらだったかは、当時の言葉の記録が無い以上、今から確定できない。確かなのは、私がその話を書面と突き合わせておらず、条件として合意した記録も残していない、ということだけだ。書面に嘘が無いことと、口頭の話が実現しないことは、両立する。
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私は「将来的には」と聞いて入社した
面接で聞いた話は、私が持っていた資格と経験を活かせる仕事の話だった。転職理由の中心ではなく、いくつかある理由のうちの一つだった。
労働条件通知書には、私が面接で希望した職種がそのまま書かれていた。よく確認したのは勤務時間や休憩、給与といった条件で、業務の欄に大きな疑問を持った記憶はない。面接ですり合わせた内容で、希望した職種での採用だったから、一通り目を通して違和感が無かった。それが正直なところだ。
面接の話と業務の欄を突き合わせることは、しなかった。
なお、私が転職したのは2024年4月の改正より前で、通知書に「変更の範囲」の欄はまだ無かった。ただ、欄があったとしても結果は同じだったと思う。通常想定されていない業務は、直後の欄には載らない。会社が見込んでいない変更は、変更の範囲にも載らない。欄があれば載る、という話ではない。
面接の話を前提にしない人が、入社後の相手だった
入社後、最初のOJT担当者に経歴を改めて詳しく説明するよう求められた。説明した。鼻で笑われた。相手はこちらの経験に興味を持たず、既存の業務に従事させる姿勢だった。
私はその担当者に、そういう仕事を希望していること、そのために勉強していることを伝えた。特に相手にされなかった。「知識はあるのか」と聞かれ、少し腹が立っていたので「あなたよりはあります」と答えた。逆鱗に触れた。
ここには2つの応じ方がある。
一つは相手の応じ方だ。OJT担当者が私の面接に同席していたのか、面接官の「将来的には」が社内で共有されていたのか、私には分からない。分かるのは、その人が私に接するときにその話を前提にしていなかった、ということだけだ。その人にとって私は、通知書に書かれた職種で入ってきた新人だった。書面に載らなかった話は、少なくとも私の目の前では、面接室に置き去りになっていた。
もう一つは私の応じ方だ。私は面接室の期待をそのまま持ち込んだ。面接で聞いた話を相手も知っている前提で話し、知らない相手に腹を立てた。「あなたよりはあります」は、事実かどうかに関係なく、言う相手を間違えていた。
言った人は、嘘をついていない
会社は嘘をついたのか。そうは思っていない。
面接での話は本当だったと思う。その業務を行っている部門は実際にあった。ただ、その部門と、求職者だった私の希望が、社内でうまく連携されていなかった。認識されていなかった。結果として活かされなかった。それだけのことだ。
このサイトでは、相手の応じ方に情報がある、と繰り返し書いてきた。今回の場合、情報があったのは面接官の応じ方ではなく、書面の応じ方だった。面接で聞いた話が業務の欄に載っていない。載っていないこと自体は、会社として約束した内容なのか、可能性の説明だったのかを確認する必要がある、という合図だった。私はその合図を読まなかった。
面接官は個人として本当のことを言った。書面は会社として何も約束しなかった。入社後に会った人の振る舞いは、書面に書かれた職種の新人に対するものだった。面接の話がその人まで届いていたのかは分からない。この三者は、どれも矛盾していない。
失ったのは資格ではなく、鮮度だった
私が持っていた資格は、面接では効いた。それを裏付けにして、いくつもの面接で胸を張って経歴を語ることができたし、成果にもつながった。資格を取ったこと自体は、失敗ではなかった。
失ったのは、その鮮度だ。入社後、その知識を使う機会は無かった。使わない知識は古くなる。数年経って、改めて磨き直さなければ使えないものになった。
失敗の本体は、面接で話したことではない。話しておいて良かったと思う。それだけの幅を持った仕事ができると示せたことは、採用の結果に効いたはずだ。失敗は、その話が書面のどこにも載っていないことを、確認しなかったことにある。確認していれば、「載っていない」と分かっただけだろう。だがそれは、期待の置き場所を決めるには十分な情報だった。
同じ場面に立つ人へ
面接で言われて嬉しかった話ほど、労働条件通知書のどの欄に入るのかを確認したほうがいい。「雇入れ直後」か、「変更の範囲」か。どちらにも記載が無ければ、それが会社として約束した内容なのか、可能性の説明だったのかを確認する。口頭でも合意は成立するので、書面に無いというだけで「約束ではない」と決めつけることもできない。だからこそ、どちらなのかを聞く。
信じるなという話ではない。どちらとして持ち込むかを決めてから持ち込め、という話だ。可能性の説明だと分かって持ち込めば、入社後にその話を前提にしない人に会っても、腹は立たない。私は確認しないまま持ち込んだから、腹が立った。
労働契約法第4条第2項は、労働者と使用者が労働契約の内容について「できる限り書面により確認するものとする」と定めている。努力規定であって、書面にしろと要求できる権利ではない。ただ、法律が労働者の側にも書面確認を求めている、という事実は知っておいていい。
確認の仕方は難しくない。内定後、通知書を受け取ったときに「面接で伺った〇〇の件は、この業務の欄に含まれますか」と聞く。含まれると言われれば、変更の範囲に書いてもらえるか聞く。含まれないと言われれば、それが答えだ。完全週休2日制の記事で書いたとおり、書面で確認したときの相手の応じ方も、会社を測る材料になる。
聞いたら採用に響くのではないか、と思うかもしれない。私はそうは思わない。内定後に通知書を見て質問する行為は、通知書を読んだという事実の表明でしかない。それで態度が変わる会社なら、その情報のほうが大きい。
まとめ
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仕事の内容は、転職先を選ぶ理由の1位(41.0%)であり、男性の自己都合離職では辞めた理由の1位(28.4%)でもある。総数の1位は労働条件(賃金以外)28.2%(厚生労働省 令和2年転職者実態調査)
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労働条件通知書に載る業務は「雇入れ直後」と「変更の範囲」の2種類だけ。前者は通常従事することが想定されている業務、後者は今後の見込みを含む変更の範囲(労基則第5条第1項第1号の3・施行通達)
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「将来的にはチャレンジできる」は、会社が見込んで変更の範囲に書かない限り、どちらの欄にも載らない。有期契約の更新後の期間については、厚生労働省Q&Aが明示義務の外としつつ積極的な明示を「考えられる」としている
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労基法第15条第2項の分かれ目は、面接の発言が具体的な労働条件の明示だったか、可能性の説明だったか。口頭でも労働契約は成立するので「書面に無いから使えない」ではない。私の場面がどちらだったかは、記録が無い以上確定できない
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私は面接で聞いた話を業務の欄と突き合わせなかった。入社後に会った人は、その話を前提にしていなかった(社内で共有されていたかは分からない)
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面接官は本当のことを言い、書面は何も約束せず、入社後の相手の振る舞いは書面の職種に対するものだった。三者は矛盾していない
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面接で嬉しかった話ほど、その機会が約束されているのかを書面と説明で確認する。通知書に記載が無ければ、会社として約束した内容か、可能性の説明かを確認してから持ち込む