転職先が決まり、入社の案内を読むと「試用期間3か月」と書いてある。ここで急に不安になる人は多い。前の会社はもう辞めている。この3か月で「合わなかった」と言われたら、行き場がなくなる。
不安の正体は、試用期間という言葉がまだ採用されていない状態のように聞こえることにある。実際には違う。契約はもう成立していて、会社が持っているのはそれを解約する権利だけである。しかもその権利には条件がついている。
ここでは条文と国の資料で、試用期間の法的な位置づけを確認する。あわせて、施工管理にだけ存在するもうひとつの期間——配置技術者になれるまでの時計についても整理する。
労働基準法に「試用期間」の制度はない
まず、意外に知られていないところから。
労働基準法には、試用期間の長さを定めた条文も、延長できる回数を定めた条文も、本採用の基準を定めた条文もない。試用期間という制度そのものが、法律に用意されていない。
法律に「試の使用期間」という言葉が出てくるのは、一か所だけだ。解雇予告の適用除外を定めた第21条である。
前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、…第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
四 試の使用期間中の者
つまり試用期間は、会社が就業規則で作っている仕組みであって、法が与えた特別な身分ではない。この出発点を押さえておくと、以降の話が読みやすくなる。
なお建設業は、人が出ていくより入ってくるほうが多い業界である。厚生労働省の令和6年雇用動向調査によれば、一般労働者の建設業の入職率は11.7%、離職率は9.7%だった。試用期間を通っている施工管理は、毎年それだけの規模でいる。
14日を超えたら、解雇予告は必要になる
第21条をもう一度読む。適用が除外されているのは「前条の規定」、つまり第20条だ。その第20条はこうなっている。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
そして第21条のただし書は、14日を超えて引き続き使用された場合には除外が外れると定めている。
読み取れることははっきりしている。入社から14日を超えて働いていれば、試用期間中であっても、会社は30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を払わなければならない。「試用期間中はいつでも辞めさせられる」という説明は、条文上そうなっていない。
除外が生きているのは、入社から14日以内という短い窓だけである。
契約は、もう成立している
ここからが本題だ。試用期間中の労働契約はどういう性質のものか。
厚生労働省の中央労働委員会が公表しているあっせん事例集に、この点の整理がある。
(1) 通常の試用期間中の契約関係に関しては、解約権留保付の労働契約がすでに成立していると解されている(三菱樹脂事件―最大判昭 48・12・12)。
(2) 試用期間中の解約権の行使に関しては、通常の解雇より広い範囲における解雇の自由が認められるが、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と是認されるものでなくてはならない。
(3) 採用当初知ることができなかったような事実が試用期間中に判明し、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することに客観的合理性が認められるような場合に、本採用拒否は相当であるとされる。
三点とも重要なので、順に見る。
(1) 契約はすでに成立している。試用期間は「採用が確定していない状態」ではない。労働契約は結ばれていて、会社に留保されているのは解約権だけである。だから本採用を断ることは、採否の決定ではなく契約の解約、すなわち解雇にあたる。
解雇であるということは、労働契約法第16条の枠の中にあるということでもある。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
**(2) 会社の自由は広いが、無制限ではない。**引用のとおり「通常の解雇より広い範囲における解雇の自由」は認められている。ここは正直に書いておく必要がある。試用期間中のほうが、会社は解約しやすい。ただし広いというだけで、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性は依然として要る。
**(3) 理由になるのは、採用時に知り得なかった事実である。**ここが実務的に一番効く。面接や書類で分かっていたことを後から持ち出すのは、この枠組みから外れる。資格を持っていないことも、経験してきた工種も、前職の在籍年数も、採用の時点で会社は知っている。
施工管理の転職エージェントを比較する
編集部おすすめの施工管理特化エージェント(登録・相談は無料)
本ページはアフィリエイト広告を含みます。掲載順位は報酬額に関わらず独自基準で決定しています。
施工管理だけにある、もうひとつの時計
ここから施工管理固有の話に入る。試用期間中に「まだ現場は任せられない」と言われることがある。これを本採用前の扱いだと受け取る人がいるが、別の要因が働いている可能性が高い。
国土交通省の監理技術者制度運用マニュアル(最終改正 令和7年1月28日・国不建技第147号)は、配置技術者に求められる雇用関係を定めている。
まず、直接的な雇用関係について。
直接的な雇用関係とは、監理技術者等とその所属建設業者との間に第三者の介入する余地のない雇用に関する一定の権利義務関係(賃金、労働時間、雇用、権利構成)が存在することをいい、在籍出向者や派遣社員については直接的な雇用関係にあるとはいえない。
マニュアルが名指しで除外しているのは、在籍出向者と派遣社員である。この論点は施工管理で「未経験歓迎」の求人が多い本当の理由で扱った派遣の構造と裏表になっている。
そして、公共工事にはもうひとつ要件がある。
公共工事において、元請の専任の主任技術者、専任の監理技術者、専任特例の場合の監理技術者及び監理技術者補佐については、所属建設業者から入札の申込のあった日(…)以前に三ヶ月以上の雇用関係にあることが必要である。
入社してから3か月。試用期間もおおむね3か月。**この2つは別々の制度なのに、当事者から見ると同じ時期に明ける。**だから「試用期間が終わるまで現場を任せてもらえない」と感じてしまう。
実際には、公共工事の元請で専任の配置技術者に就くには入社から3か月という時計が回っているだけで、試用期間の有無とは関係がない。民間工事はこの要件の対象外であり、専任が不要な工事も対象外である。
なお、このマニュアルには「試用期間」という語が一度も出てこない。だから「試用期間中でも配置技術者になれる」と言い切ることはできない。書けるのは、マニュアルが除外対象として挙げているのは在籍出向者と派遣社員であるということ、そして公共工事には3か月という別の要件があるということ、この2点だけである。
面談や入社前の説明で、ここを分けて説明できる会社かどうかは、見ておく価値がある。「試用期間中だから」で片づける会社と、「公共工事の専任は入社3か月からになる」と説明できる会社では、制度の理解度が違う。辞める側の局面でも同じことが起きるという話は施工管理の退職引き止めに書いた。
条件が事実と違ったときは、即時に抜けられる
ここまで会社側の権利の話をしてきたが、労働者側にも条文がある。労働基準法第15条だ。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。…
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
明示された条件と実態が違えば、労働者は即時に契約を解除できる。予告期間はいらない。しかも転居して入社していた場合、14日以内に帰郷するなら旅費は会社負担になる。
施工管理は現場が変われば勤務地も変わる職種なので、第3項が現実に効く場面がある。求人票と実際の勤務地が違った、聞いていた工種と違った、という事態は起こりうる。
ただし、この条文が想定しているのは「明示された条件と事実が違う」場合である。聞いていた勤務地と違う、示された賃金と違う、という食い違いだ。書面で条件を確認しておく手順は施工管理の「完全週休2日制」は土日祝休みではないで整理した。
条件は合っているが「なんとなく合わない気がする」というのは、これとは別の問題になる。そしてこちらのほうが、試用期間中にはよく起きる。
私の試用期間は、違いを覚えるうちに過ぎた
自分の場合を書いておく。
試用期間は3か月だった。労働条件通知書の細かい文言までは覚えていないが、待遇は本採用後と同じだった。試用期間中だけ賃金が低い、という設計ではなかった。
入社してから最初の1か月は研修に充てられ、それを終えてから本来の配属先に移った。
「本採用前だから」と感じた場面は、正直なところ特になかった。同じ業界・近い業界からの転職ではあったが、会社が変われば仕組みもやり方も違う。パソコンの使い方ひとつ取っても違った。その違いを一つずつ把握しているうちに、3か月が過ぎていったという感覚に近い。
**試用期間が明けたときの通知も、特になかった。**なんとなく過ぎた。前節までに見たとおり、本採用を通知する義務は条文のどこにもない。何も言われないまま過ぎるのが、むしろ通常の姿である。
見ていたのは「合っているか」ではなく「どう合わせるか」
この会社が自分に合っているかを見ていた実感は、確かにある。ただしそれは「合わなければ辞めよう」という視点ではなかった。自分が選んだこの転職は間違っていなかったかを確認している、という感覚に近い。
間違っていたから、あるいは大変だからという理由で辞める考えはなかった。30代後半での転職で、何度も繰り返せる年齢ではなかったからだ。加えて、前の職場を辞めた人が次でもすぐ辞めて転々としていく例をいくつも見てきた。辞め癖をつけないことを、自分では大事にしていた。
だから、会社を品定めするのではなく、合っていない部分をどう合わせられるかに注力していた。見る対象は同じでも、目的が違う。
見極めは、内定を承諾する前に終わらせておく
ここが、この記事で一番伝えたいところである。ただし年齢によって答えは変わると思っている。
若いうちであれば、やり直しは効く。辞める理由をきちんと説明できるなら、試用期間中に判断するという選択肢もあるだろう。それでも少し拙速には見えるが、道は残っている。年代によって転職市場での見られ方がどう変わるかは施工管理30代の転職は遅いかで整理した。
自分の場合は30代後半だった。何度もやり直しが効く年齢ではない。そして**「30代後半になって試用期間中に辞めた人間」だと次の会社に思われること**が、率直に言って怖かった。前節で見たとおり、本採用拒否の理由にできるのは会社が採用時に知り得なかった事実に限られる。だがこちらの職歴は、次の会社にとって最初から見えている事実である。
労働基準法第15条第2項は、条件が事実と違ったときの逃げ道としては強力だ。だがそれは「話が違う」ときの条文であって、「思っていたのと違う気がする」ときの手段ではない。
だからこそ、職場を選ぶ判断は、内定をもらうまでの間に済ませておく。承諾前に条件を書面で確認し、聞くべきことを聞いておく。試用期間に入ってからできるのは、合わせにいくことのほうである。
労働条件通知書で確認しておく3点
では承諾前に何を確認しておくか。労働条件通知書で見ておきたいのは次の3点である。試用期間があること自体を避ける必要はないが、書き方には会社の姿勢が出る。
1. 試用期間の長さと、延長の有無
「原則3か月、状況により延長することがある」という書き方をしている場合、その「状況」が何を指すのかを聞いておく。延長の可否は就業規則の定めと個別の事情によって判断が分かれる領域で、条文だけで白黒がつかない。だからこそ、あらかじめ聞いておく意味がある。
2. 試用期間中の賃金が、本採用後と違うか
私の転職先は本採用後と同額だったが、試用期間中だけ低く設定している会社もある。差を設けている場合は、その差と期間が明示されているかを見る。明示された条件と実態が違えば前節のとおり即時解除できるが、逆に言えば、明示されていなければ後から争いにくい。
3. 本採用の判断を、誰が何で行うか
ここに具体的な答えが返ってくる会社は、評価の仕組みを持っている。「様子を見て」としか返ってこない会社は、本採用の判断も同じ粒度で行われる可能性がある。
前節までに見たとおり、本採用拒否の理由になるのは採用時に知り得なかった事実である。この点を踏まえたうえで質問すると、相手の答え方でかなりのことが分かる。
まとめ
-
労働基準法に試用期間の制度はない。条文に現れるのは解雇予告の適用除外(第21条第4号)という文脈だけである
-
入社から14日を超えれば、試用期間中でも解雇予告が必要になる(第21条ただし書+第20条)
-
試用期間中も労働契約はすでに成立しており、会社が持っているのは留保された解約権にすぎない。本採用拒否は採否の決定ではなく解雇である
-
解約権の行使は通常の解雇より広く認められるが、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性は必要で、理由になるのは採用当初に知り得なかった事実である
-
公共工事の元請で専任の配置技術者に就くには入社3か月以上の雇用関係が要る。試用期間とは別の時計であり、混同されやすい
-
明示された労働条件が事実と違えば、労働者は即時に契約を解除でき、転居していれば帰郷旅費は会社負担になる(第15条第2項・第3項)
-
ただしこれは「話が違う」ときの条文であって、「合わない気がする」ときの手段ではない。職場を選ぶ判断は、内定をもらうまでの間に済ませておく。試用期間に入ってからできるのは、合わせにいくことのほうである
-
ここは年齢で答えが変わる。若いうちはやり直しが効くが、30代後半での短期離職は次の選考で最初から見えている事実になる
-
本採用を通知する義務は条文にない。何も言われないまま試用期間が明けるのが通常の姿である